アモル

ゴールデンウィークは国立新美術館で開催されている『ルーヴル美術館展 愛を描く』を鑑賞しました。一人のアーティストを掘り下げた展覧会ではないので、二の足を踏んでいましたが、観に行って本当に良かったです。愛をテーマにした70点余りの絵画です。最後の部屋は今回のメインとなる作品が多く、しかもこの部屋だけ撮影可能となっていました。上の写真はフランソワ・ジェラールの『アモルとプシュケ』という作品です。アモルというのは、矢を放って、射られた人はその時に出会った人に恋に堕ちてしまうという能力をもった、そうキューピッドの事です。キューピッドって色々な呼び方があるんですね。しかも、ヴィーナスの子どもで、成人もしていて人間に恋をしてしまいます。ヴィーナスも色々な男と浮世を流し、美の女神のはずが自分より美しい人間の女性プシュケに嫉妬をしてしまい、意地悪をします。ヴィーナスは自分の子どもアモルに、プシュケを一番醜い生き物に恋をさせるように仕向けますが、アモルは誤って、プシュケの前で自分に矢を射してしまい、自分がプシュケに恋をしてしまいます。今回の絵画展って絵だけではなく、こういう背景にあるストーリーも面白いのです。色々な場面から色々な想像力をかきたてられます。神々も人類も恋をして異性(時々同性)を追っかけている姿が、美しくもあり醜くもあり、本性が現れるから作品にしやすいのでしょうか。無理やり女性を奪う男性や、男性が寝ている間に魔法をかける女性、許されない恋の末、心中してしまう恋人。不思議な事は、売春婦の仲介をする老婆や、好色な目で女性を誘惑する中年のおっさんまで作品として描かれて、芸術作品となっている点です。こういう絵を誰が欲してどこに飾っていたのでしょうか。自分の娘に、男に気をつけろと戒めるために描かせたのでしょうか。それとも、来訪者にお前の本性を見抜いているから娘に手を出すな、と警告するつもりで飾っていたのでしょうか。とても所有する気にはならないのですが、こういう普段見ることができない人間のむき出しになった欲望が生々しく絵画になっているから楽しめるのでしょうか。そこで、写真の『アモルとプシュケ』です。無表情なプシュケのおでこにキスをするアモル。様々な解釈がなされているようですが、私には弓矢で恋をさせる役のアモルが自分が恋をしてしまって、荒々しく奪いたいという自分の気持ちを抑えて、一生懸命平静を装っているようで可愛らしくみえます。さて、展示作品は男女の愛だけではなく、マリアが幼子キリストに向けられる親子のやすらぐ愛もあり、今回の企画展を通じて様々な愛情表現を感受できます。