こんな本置いています vol.52/おいで、一緒に行こう

泣けない・・・。読む前からきっと、泣くんだって覚悟をしていた。私も年と共に涙腺が緩んできている。『福島原発20キロ圏内のペットレスキュー 』という副題だけで色んな事を想像して読む前から泣きそうです。 決して泣きたくて読み始めたわけではありません。私は震災当時は栃木県にいて今は宮城県に住んでいます。間にある福島県は震災前も後もよく訪れています。福島県に住んでいる人に、子どもの将来のために放射能を気にして県外へ引っ越したが、結局、引っ越し先で家族全員いじめにあって、戻って来たという話も聞いた事があります。だから、福島で起きている事に興味があったので読み始めました。・・・泣けない。泣けないどころか全く予想していなかった事が起きる。クスッと声を出して笑ってしまった。しかも、何回も。年と共に涙腺の緩み意外にも、若干目の焦点が合わなくなってきている。涙目になるとちょうどピントが合ってくるが、なかなかピントが合わない。何故、泣けないのか?この本はシリアスなドキュメンタリー仕立てではなく、作者の森絵都さんが人間を描き過ぎています。ペットレスキューで活躍する人達の性格の色をしっかり描いています。運転が荒い女性はキャッツアイの彼女と名付けられ、青ジャケットの彼やら、無職の旦那も登場して何度かいじる場面もユーモアでしかない。でも、そういう、ありのまま感じた事が表現されているから、読みやすく伝わりやすいと思います。行政や警察の監視の目をくぐって、時には有刺鉄線を切って、バリケードをどかして、警察に見つかったら嘘をついてごまかしながら、放射線量の高い立ち入り禁止区域へペットを助けに行く。しかも、見も知らぬ他人のペットを・・・。何回も何回も何カ月にもわたって・・・。当然、誰かに賞をもらえるわけでもなく、金メダルを獲れるわけでもない。むしろ、刑務所に入れられるかもしれないし、放射能で身体が蝕まれるかもしれない。こんなリスクの高い仕事。いや、金ももらえないボランティア活動。 とても、できる事ではありません。人間を頼って生きてきたペットも震災後の原発事故で犠牲を払っています。そして、取り残さざるを得なかった飼い主も罪悪感を抱えなければいけない状況に陥っています。そんなペットや飼い主たちの心が救われていく様子、実は泣けました。引き取られたその後の犬たちが新しい飼い主と溶け込んでいる姿や元の飼い主との再会。ペットレスキューに出会っていなければ、死んでいたかもしれない犬が、新しい命を宿し、新しい命が、別の人に飼われていき人を癒す存在となる。そういうシーンを想起するとやはり泣けてきます。特に、犬は野生で生きる事が許されず、人に飼われる事でしか生存しません。スピッツやシベリアンハスキーのようにブームが去った犬種は根絶やしになる位、見かけなくなっています。何が良くて何が悪いのか、ペットを飼う事自体、人間のエゴかもしれないし・・・。色んな事を考えさせられました。ただ、我々人間が引き起こした事は、我々人間が責任を取らなければいけないという事を教えられたような気がします。左の『屋久島ジュウソウ』は森絵都さんの旅行エッセイです。

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