こんな本置いてます vol.213/クララとお日さま

2017年のノーベル文学賞受賞のカズオ・イシグロさん。カズオ・イシグロさんと言えば、日本では『わたしを離さないで』が多部未華子さんと木村文乃さん、演出蜷川幸雄さんで舞台化され、綾瀬はるかさんでドラマ化されています。ノーベル文学賞受賞後の注目作品です。テーマや主題は『わたしを離さないで』と共通する部分があります。そして、この物語は分かりやすくて分かりづらい。ここから先はネタバレになっているようでネタバレにならない?さて、クララというのは人口知能を持った人型ロボットですが、何故かAFと表現されています。AFが何の略なのかは記されていませんが、ネットで調べるとFはフレンドで”人口友達”のようです。AIは、決して人間やロボットではなくて、あらゆる電化製品に搭載されてきているので、言葉を避けたのかもしれません。鉄腕アトムの世界では、近未来では家庭にロボットがいて人間のお手伝いをしていましたが、ここの世界では子供の友達として存在するようです。人口知能で優れた頭脳を持っていますが、ヴァージョンアップはするようで、クララは旧型のAFとなっています。ショーウィンドウで飾られていたクララは、もう一人の主人公の人間の女の子ジョジーに気に入られたので、ジョジーの母親に買われて、一緒に生活を始めます。この物語の分かりやすい所は、その主人公のクララが語り手となって物語が進行するところです。クララはショーウインドウから見る世界しか知らなかったので、初めて見るその他の世界は人間の子どものように吸収していきます。クララは人口知能とは言え、子どもなので子ども目線で語られるので、表現や文章は分かりやすいという事です。しかし、反面このことがこの物語を分かりづらくします。クララはショーウインドウで見ていた世界しか知識がないため、初めて体験することが十分に理解できないこともあり、どんな場面で何が行われているのかが謎になっています。同時にクララはジョジーの友達としてあてがわれたAFのため、家庭内の大事なことまでは知らされないので、クララ目線ということでクララが教えられていないことも謎になります。そこが、カズオ・イシグロさんの上手いところだと思います。どうしても、その謎が知りたくて、どうなるのだろうと先を読み進めてしまいます。終盤、物語を動かすキーパーソンがでてきて、控え目で忠実だったクララも触発されるかのように、自分が信じることのために、周囲をも説得して行動します。いよいよ謎が明かされると期待が盛り上がっていきます。『わたしを離さないで』で終盤味わったカタルシス(原作ではなく舞台で味わいました)がくるのも、あと少しです。ところが、残り数ページに来た時にあれ?まだ?となり、結局、私の疑問は最後まではっきりとした説明がなされずに終わってしまいました。クララの存在理由は分かりましたが、時代設定もどこの国かも、あいつはなんだったんだ?なぜ、こんな力が働いたのか?などなどなんとなく空想できても疑問は残ります(AFの略もネットで調べたくらいです)。確かに最後の最後までクララ目線なので、クララの理解したことしか示されません。もしかすると、クララが体験してクララなりに理解できたことは、実はクララの思い込みに過ぎなかったかもしれません。巻末であとがきを書かれている河内恵子さんも理由はともあれ、二回読んだことを示唆しています。とはいえおススメできないわけではありません。クララ目線という世界観を守り続けた一貫性のある作品で、クララという存在は心温まる存在です。バランスをとるため本の帯に書かれた推薦文を載せておきます。是枝裕和さん「イシグロ。AIロボット。少女。境界を越えた心の交流。読まずにいられるわけがない。」佐々淳子さん「この困難な時代にこの本が読める幸せ。書棚にずっと置いておきたい」茂木健一郎さん「クララは人間にとって本当に大切なものを思い出させてくれる鏡だ」。いつか映像化されるのだろうか?ところで、ほとりカフェ本日も11時にオープンします。今日はお日さま出るかなぁ?