この本は神保町のPASSAGEの『中江有里の本棚』から購入しました。中江有里さんが読むときに付けていった付箋もそのまま残っています。さらに、本を開くと「謹呈 著者」の短冊が・・・。と、いう事はこの本のルートは・・・。中古とは言えこの貴重な本が「¥1100(ほぼ新品)」というリーズナブルな値札で(PASSAGEでは棚主が好きな価格をつけています)手に入るとは・・・。前置きはさておき、伊集院静さんがいつか書きたかった夏目漱石の青春ストーリーという触れ込みとなっているこの本。上巻は夏目漱石の前半生で、養子に出された少年期から響子さんと結婚して暮らし始めた頃までが描かれています。夏目漱石と言えば作家としては知っていたのですが、私生活までは全く知りません。偉人さんなので浮世離れしてるんだろうな、という位です。でも、この本を読んで、意外と普通の青年だという事に驚きました。とはいえ、私なんかより全然賢くていい大学でて、教師になって高い給金をもらっているので、当時の庶民の暮らしよりは良かった事は想像できます。でも、普通に友達同士で遊んだり恋もします。あれあれ?普通の学生じゃん。夏目漱石が生きた時代は江戸の終わりから大正の初め。ようするに人生の大半は明治時代です。徳川幕府から明治政府へ移って、開国して色んな文化が外国からも入ってきて、日本が激変した時期です。明治時代を描くのが主題ではないのですが、夏目漱石周辺の明治時代の様子が本当に活き活きと描かれています。普通、こういう歴史物や偉人伝を読むと描く情景は想像の域を超えず、日本でありながら身近に感じ取れない世界観となるのですが、この小説は目の前に現実にあるかのような景色が見えてきます。西洋風のどっしりした建物の周囲で賑わう人々や、川沿いで涼しい風が入ってくる2階建ての木造住宅や揺れる柳。野原で野球をやっている青少年たち。明治時代のはずですが、同じ時代を今一緒にいるような錯覚が起きるのです。伊集院静さんの文章の力なのだと思います。夏目漱石は教師になる位真面目ですが、周りはいつもにぎやかで楽しそうで、そんな周囲の人たちに巻き込まれて素の顔を見せてしまうのも魅力的です。もう一人の主人公、正岡子規。にぎやかの中心にいて対照的な性格の彼が一番漱石に影響を与えているように見えます。離れていてもお互い放っておけない本当の親友だという事が分かります。正岡子規は愛媛の出身なんですね。夏目漱石も東京で正岡子規と親友になった後、愛媛で教鞭を振るう。偶然なのか夏目漱石が意図して選んだのかは分かりませんが、これも二人をつなぐ興味深いエピソードです。でも、夏目漱石=坊ちゃん、すなわち愛媛県という印象が強いのですが、滞在したのはわずか1年というのも驚きでした。驚きといえば同時期のお友達が有名な人ばかりなのも驚きます。類は友を呼ぶ。と、いう事でしょうか。今でいうと芸能人同士が知り合いというレベルなのでしょうか。それにしても、明治の人って若いころからしっかりしています。昭和の後半から平成の平和ボケした時代に生きてきた私よりも、随分大人です。激動の時代を生き抜くには、地に足をつけて遊びも仕事も懸命に生きていかないといけない時代だったのでしょうか。夏目漱石や正岡子規だけでなく、この頃の作家さんって色んな意味で早世な感じもしますし。さてさて後半生の下巻も楽しみです。これ、ドラマになっても面白いと思います。あっ!ところで、今日は月曜日ですが祝日ですので、ほとりカフェ本日も11時にオープンします。